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★ あるサイトさんの霊があるとしたら、死んだときのまま霊になるであろうから今後はぼけ霊が増え霊界もやっかいであろうという記事をヒントにさせていただきました。感謝いたします。ワーグナーのオペラになっていますが、ハイネに「さまよえるオランダ人」という作品があります。神罰により永遠にさまようことを課せられた幽霊船、死ぬことを許されぬ罰、乙女の捨身の愛により最後救われます。そして船長と乙女は一条の光となり天に昇ります。

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                  ぼけ霊

 「うーんしょ」
 「よっこらしょ」
 わし、取っ手につかまり車いすに座った。輪っかに手をやる。輪っかがない。ないではないか。
 「またー、それ、ただの椅子よ[E:sign01]」
 突然、ボロをテンプラ鍋に入れたような悲鳴が。
 「しっかりしてよー。霊界に来てもう5年でしょ[E:sign01]」Imgf005_b
 担当のおばはんじゃ。霊界歴34年、霊界、もちろん年取らぬ。ガンで亡くなり46でここに来たそうじゃが、そのまんまの威勢、保っておる。果てのない霊界、これから未来永劫、ぼけ霊どもを怒鳴りちらしていくのじゃろう。死んでおるのに生きておる。たまらんちゃ。
 おばはん、わしの両脇に手ー入れ引き立てる。
 「おおっ、いたたっ[E:sign01]」
 腰が鳴る。ギググ、イヤな音じゃ。わしは孫が楽しんでいたキョンシーのような情けない格好でおばはんに体ゆだねる。おばはんの顔、もろ接近。おばはん、顔そむける。わしもそむける。あっちゃ向いた顔どおし汗が飛ぶ。
 「ちゃんと輪っかを握って[E:sign01]動いたら大変よ[E:sign01]」
 そんなにどならんでもエエやんか。ツバ避けようもない。わし、輪っか、必死に握る。
 「うんこらしょ」
 「はふー」
 大きなため息同時に出た。
 「今日はどこ行きたいの[E:sign01]」
 わし、おそるおそるおばはんに言う。
 「展望台に」
 「またー[E:sign01]」
 いちいち、[E:sign01]、つけんといてやー。
 「孫の顔見たいもんでー」
 「おしめ、ちゃんと代えたのー[E:sign01]」
 また尊厳いたく傷つける。

 おばはん、しぶしぶ車いす押しながら霊界展望台に向かう。
 「おーっ。元気にしとるかやー」
 なつかしいぼけ霊や普通の霊にいくつも会う。お、あれはTさんじゃ。
 「……」
 じーっとわしの顔、どろーんとした目で見て口、もぐもぐ動かしておる。よだれさえ垂れておる。
 Tさん、2年前に来た。あっちゃでは大手の課長、精気あふれておったが、6年のアルツハイマーのあとこっちゃへ来た。わしを全然おぼえておらん。わしもぼけはじめておったが幸いにも心臓でころっと逝かせてもろた。じゃが霊界来てあっちゃの人間に幸も不幸もないことよーぅ、わかった。こっちゃが勝負なんじゃ、未来永劫、終わりなき始まり。結局あきらめるしかないんじゃ。あ・き・ら・め、未来永劫あきらめ、あっちゃのあきらめなんぞ物の数ではない。Tさん、あきらめることもできんで未来永劫、ぼけ。たまらんちゃ。
 展望台、今日も霊があふれておる。入り口で整理券配り、あっちゃ展望は5分以内と決まっておる。
 おばはん、いらいらしながら足鳴らしておる。あっちゃでもくじ運悪かったがここでも。あっちゃは我慢しとけばいつかは運も向いてくるじゃろう。しかし…、しかしじゃ。こっちゃは未来永劫、宇宙の終わりまで、いや宇宙終わっても悪運、ついたまま、このおばはんと、おーーーー、たまらんちゃ。
 「はい、順番来たよ[E:sign01]」
 おばはん、グイと乱暴に車いす押す。わし危うくつんのめりそうに。
 「危ないやんか。落ちて死んだらどないすんねん」
 「ぎゃはは[E:sign01]」
 とたんにおばはん、カバのように口開け下品な笑い。それもそうじゃ。死ぬ喜びさえ、ここにはない。それにしても歯ー、磨いとんかい。
 わし、展望台の前にようやく着いた。

 おるわ、おるわ、無数の霊。断っておきまするが、人間様だけではありまへん。犬猫、イタチ、金魚まできちんと展望台分けてある。ずらーっと並ぶ霊ども、そりゃ壮観ですわー。
 近年、ぼけ霊、異常に増えておる。昔は生きのいい霊が多かったそうじゃが。もちろん霊は死んだときの姿形、あっちゃのぼけはここでもぼけ、未来永劫、ぼ・け。本人はええじゃろう。だが担当はたまらん。それにそのあと、こっちゃへ来た家族が相も変わらぬぼけ見て泣くこと、泣くこと、毎日その修羅場の繰り返し。
 わし、あっちゃ、見た。
 おーーー、今日もやっとる。息子夫婦のバトルロワイヤル、息子50いくつでリストラされておる。今は臨時の警備員。毎日シコシコ食いつなぎ、嫁もアルバイト出ておる。余裕なければ気持ちも尖る。見るたびたいていケンカしとる。お、嫁はん、ひとしきり罵倒し終わるとネコ、なで始めた。わかる、わかる、唯一の慰めじゃのう。お、ネコ、宙見て瞳、カミソリのように光っておる。異様な光じゃ。じーっと宙を見すえておる。そのうち宙にネコパンチ始めた。狂ったようにパンチ繰りだす。嫁はん、ぽかんと口開けネコ見ておる。霊は心の中まで見えるんじゃ。これがまたたまらん苦痛じゃ。わしの死、誰が喜んだか一目瞭然。嫁はん、悲しんだとは言えんなー。ま、そりゃおいといて、嫁はん「ネコが霊を感じてる」と思うとる。アホか[E:sign01]部屋にふらふら漂うチリ光るから見とるだけじゃ。たまには掃除しなはれや。
 わし、ずーと見ておったが、知らず知らず涙、頬伝わっておった。何でこんなに悲しいんじゃ。許してくれい、わしにはどうにもでけんのじゃ。わしが遺産でも残したらのー。もう展望台来るのやめようかい。たまらず孫に焦点会わせた。孫は今年、就職、張りきっとるはずじゃ。
 おーーーー、泣いておる。失恋かい。この前、楽しそうにデートしておったのに。どうしたんじゃい。泣くなー。わしの血ー引いたせいか、まあ、イケメンとは言えんが、そのせいかい、許してくれい、泣くな、わしまでたまらんちゃ。わしの頬、もう涙でぐちゃぐちゃ、一人暮らしの妻見る気力のうなった。息子の嫁はんに嫌われ未だに一人暮らし、許してくれい、共に死ぬべきじゃったのう。そしたらわしもこんなおばはんじゃのうて、お前に車いす押してもろたわ。
 死んでまで、何でこんなもん、見らんといけんのじゃ。それも未来永劫。自慢じゃないがわしの子孫が上出来のはずなかろうもん。もうほんとにしばらく展望台よそうかい。
 「見えたー[E:sign01]」
 おばはん、どなる。じゃかっし、クソばばあ、よう見えとるわい。

 「ぎゃああ[E:sign03]」
 突然、ぞうきん、テンプラ鍋に放り込んだような叫び聞こえた。わし、そっちに目ーやる。Tさんじゃった。Tさんのあっちゃに焦点あわした。
 結婚式やった。きれいな花嫁純白のウエディングドレス、あれはたしかTさんが自慢しておった娘さんじゃ。おうおう、Tさんよかったのー。花嫁、きれいじゃー。花婿もキリリとした男前、最高のカップルじゃ。ほんによかったのー。唯一の心残りやったかい。ぼけ頭にもその喜び、あふれたかい。自慢の娘の晴れ姿、行きたかろう、きっとあっちゃに行きたかろう。我慢しなはれやー。懐かしさに霊界脱走すれば二度と霊界には戻れぬ、厳しい掟じゃ。そうなりゃ未来永劫、あっちゃの浮遊霊。ぼけ幽霊、さまよえばどこ行くかわからん。あっちゃこっちゃで見せ物になるでー。そんなあんた、見るに忍びん。ここもけしてようないが、浮遊霊よりはましじゃろう。きっと我慢しなはれやー。あっちゃの喜びでさえこっちゃでは悲しみじゃ。
 「シクシク」、「シクシク」、「エーン」、泣き声聞こえた。
 子供たちじゃ。不幸にも幼くしてこっちゃに来た子供たち。母恋しさに、父恋しさに展望台来るたび泣いておる。そりゃそうじゃろう。よーうわかる。霊界、年取らぬ、父や母がここに来るまで泣いて暮らすんかい。それでも健気にあっちゃには戻らん、父や母、これ以上悲しませたくないと。おうおう、何という痛ましさ、何といういじらしさ。誰がこんな仕組み、創ったんじゃい、誰がこれほど酷いんじゃい。エラそうにせんと出てこんかい[E:sign03]。そしてなー、許してつかわさい。本当に許してつかわさい。わしにはどうにもでけんのじゃ。
 「もういいのー[E:sign01]もうすぐ5分よー[E:sign01]」
 クソばばあ、どなる。
 「もう、エエわい。展望台二度とこんわい[E:sign03]」
 わし、どなり返した。
 おばはん、不意の反撃に目んたま、ドングリのようにまるめておる。
 わし、涙ぼろぼろ、膝、濡らしておった。
 永遠、これほど恐ろしいものがあろうか。

 死にたい、永遠に…死にたい、、、、たまらんちゃ。

                 FIN

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2009.10.31 / Top↑

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