上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
★ わたしのデー嫌いなイケメン組です。ロベスピエールと共に恐怖政治を断行し、テルミドールの反動で処刑されたサン・ジュスト。「革命の大天使」と呼ばれ女性的とも言える美貌で日本でも、ファンクラブができるほどの人気。一方の王党派ではロシュジャクラン伯爵。こちらは「大天使」の異名、いずれ劣らず美形です。日本では両方好きという女性が多いようで苦笑ですけれど。まあ、大天使同士の果たし合い、どちらも最後まで信念を貫いて戦い抜き、サン・ジュストは26歳、伯爵は何と21歳で世を去っています。イケメンは顔だけではありません。伯爵はいずれとして、今回はサン・ジュストの最後を短編にしてみました
 前に書きました「雨」ではないですが、つくづく「善魔」は怖いと思います。二人とも「正義」の死闘でした。革命派ではサン・ジュストほど革命の理想を追ったものはないでしょう。もともと詩人、この世に美しいイデアを求めたのだと思います。そして最後、それに絶望し、虚無に沈んでいきました。「革命家」とはもともと虚無主義者のような気がしてなりません。そうだとすればれほど傲慢なものはないでしょう。ただわたしは、このような「狂気のもの」が輝ける理念を示し、少しづつ人間は「正気のまま」その理念に近づいていくと思っています。

200px-Saint_Just     382px-Henri-de-la-rochejacquelein-1 






 





上がサン・ジュスト
右がロシュジャクラン伯爵です。
これで見ると革命派が負けているような(^_^;)。いずれもウィキペディアに略歴があります。「私が前進するときは私に続け。後退するようなことがあったら、私を殺せ」と言って戦った伯爵もすごいです。


短 編
        アデュー


 「と殺者!」
 「悪魔!」
 パリ中央革命広場への道は怒号に満ちていた。黒灰色の雲が力のない夏の日を隠し、雲の端から灰色の光とも見えぬ淡い光輪が広がり、いつしか空に吸われていた。風が吹かぬ。大気は雨をはらんでいた。汚れたシャツをまくり上げ男が再び叫んだ。
 「と殺人!」
 頭を黄色い布で束ねた女が、開いた瞳に殺気をみなぎらせ言葉を投げた。
 「悪魔!」
 サン・ジュストの青い瞳は閉じられていた。白いシャツに紺色のタイツ、高く首を巻いたカラーは無惨に汚れていた。長い金髪が夏の湿気にじっとりとカラーにまとわりついている。ぬるい汗がひと筋、額を伝わった。シャツには連なる花のように血痕が散っていた。ロベスピールの血だ。昨夜遅く市庁舎に乱入した国民公会の軍人たちはロベスピエールやサン・ジュストを補足した。市庁舎のホールに銃声がこだました。ロベスピエールは迷わず短銃をおのが喉に撃ったが弾は外れ、あごを打ち砕いた。サン・ジュストは駆けよりロベスピエールを抱いた。
 「殺すぞっ」
 抜刀した若い兵士がサン・ジュストを押しのける。若い獣のような体臭が血の臭いに混じった。サン・ジュストは兵士に海の底のような暗い目を投げる。支えを失ったロベスピエールが音を立て床に崩れた。サン・ジュストは無意識に涙の流れていることを知った。おのれにも涙は残っていた、膜の張ったように薄れゆくロベスピエールより、サン・ジュストはそのことに驚いていた。
 「殺すな。裁判にかけるのだ」
 青い将校服の男が短銃の背でサン・ジュストの頭部を打ちつけた。
 ロベスピエール一派の措置は巻き返しを恐れ矢継ぎ早だった。翌朝、形ばかりの裁判でその日の内の処刑が決定された。22名もの大量処刑である。

 先の荷馬車にロベスピエールが乗っていた。打ち砕かれたあごに汚れた布を巻いているだけだ。しかしロベスピエールはしっかと粗末な椅子に座っていた。荷馬車の揺れに頭が不規則に上下していた。時折り、くずおれる。そのたびに両脇の兵士が金髪をつかみ顔を引き上げた。サン・ジュストはおのが手に抱かれたロベスピエールに涙を流したあと、再び泣くことはなかった。
 「王殺し!」
 高い女の声だ。サン・ジュストの青い瞳が開いた。雲を縁取っていた光は雲に吸われて灰色の空は意味もなく広がっていた。開いた瞳にいっそう声を張り上げる民衆が写っていた。一時はサン・ジュストを神のように持ち上げた民衆である。 
 「王は存在自体が罪である。王は神であるか…無である」、サン・ジュストに不意に言葉がよみがえった。ルイ16世の裁判で彼の演説は王の運命を決めた。王のたるんだあごが生きているようにサン・ジュストによみがえった。
 罪をあがなうもの、サン・ジュストは低くつぶやいた。荒れた髭の男の声も、引きつれた女の声も聞こえなかった。王は罪である、王のたるんだあごにサン・ジュストは再び確信した。王は罪であり、王は罪をあがなった、いや、あがないえたか。ここまで思い、足が震えているのに気づいた。後ろ手に縛られどうすることもできなかった。
 「おい、ルイ。震えているのか」
 兵士が指さした。サン・ジュストを見下ろし黄色い歯を見せ笑った。神のように超然としたサン・ジュストの初めて見る震えだった。サン・ジュストは兵士を見上げた。淵のような深い瞳に暗い光が湛えられていた。兵士の息をのむ声が聞こえた。
 サン・ジュストは兵士の開ききった瞳をのぞきながら確信した。人はみな自ら罪をあがなうもの。神もおのが罪をあがなえない。少年の日に見た初めての遺体、彼は音がするほど震え父の腕にしがみついた。生まれたことのあがない、死者のみが無垢である、いや未だ生まれぬものが至高の無垢である。自由・平等・博愛、美しい言葉は人間の言葉ではない。おのがそのために生き、死んでいく言葉、殺し、殺し尽くせばかなえられると思った美しい言葉、それは滅び行くものにこそふさわしい。サン・ジュストは初めて国王に哀憐を感じていた。肥満したあごが心底なつかしかった。

 革命広場は怒濤のようにざわめき、うねっていた。王を処刑したときと同じうねりだった。民衆は地が見えないほど広場を埋め尽くしていた。赤い帽子をせわしく振っているものもいる。ほほ骨を尖らした男が、荒れた髪を布で縛り付けた女が、獲物を待っていた。青い服に赤いモールの騎馬兵士が着剣し並んでいた。ひと声、頭を揺すり馬がiいなないた。薄い闇が広がっていた。民衆のうねりは大波となり広場に幾度も打ちつけた。
 「ルイ」
 かすれた声で、将校がサン・ジュストを呼んだ。見覚えがある。サン・ジュストはゆっくりと前に出た。見上げる空に4台の断頭台が死のように静まっていた。すすり泣きが聞こえた。年若いアンリオだ。サン・ジュストは肩を抱き乱れた金髪に接吻した。
 「急げ」。断頭台からの声が死をせき立てる。
 サン・ジュストはおのれを見つめる目に気づいた。ロベスピエールだ。あごを砕かれ声も出せぬ彼は両脇を兵士に支えられ、サン・ジュストを見つめていた。不思議に澄んだ目だった。足の震えは再びくることはなかった。
 「アデュー」
 サン・ジュストは低い声をロベスピエールに贈った。ゆっくりとロベスピエールがうなずいた。これほどロベスピエールの目は優しかったのか。
 「行けっ」、兵士が銃の台尻で背中を押した。
 階段を登り、壇上で後ろ手がほどかれた。なすがまままのサン・ジュストは静かに民衆を見渡した。風が出ていた。生暖かい風がサン・ジュストの金色の髪を洗った。髪を長い指でかき上げ、なおも民衆を見下ろしていた。おのれが信じた理念に生きる美しい民衆、侮蔑も諦観もなかった。あれほどのうねりが恐ろしいほど収まった。かって歓呼の声を上げた革命家が目の前に彫像のように静まっている。長い髪だけが風になぶられている。革命の5年が幻となって消えていく、その喜びと、そして恐れが民衆を支配していた。
 「アデュー」、サン・ジュストは言葉を飲みながら贈っていた。

 仰向けになることを望んだ。おのがあこがれを一瞬に断ち切るものをしかと刻んでおきたかった。断頭台の刃に一瞬光がよぎった。銀色の刃が黒い空に救いのように浮かんでいた。
 「罪をあがなうもの…人はあがないうるのか」、サン・ジュストはまなこを開き刃を見上げていた。
 兵士のうなるような声が聞こえた。
 銀色の刃は宙を切り裂き、笛のような音を立て、サン・ジュストに落ちていった。

★ あとがき ★
 
 学者はとはヒマなものでロベスピエールがドーテイであったかどうか研究した人がいます。結論はドーテイ。最後まで質素なアパートに住み一切の享楽を遠ざけました。ドーテイほど恐ろしいものはないのですね。わたしのような俗物が笑うのは簡単ですが。サン・ジュストも結婚したことはありません。アンリエットという婚約者はいたのですが、なぜか結婚しませんでした。一説では死を覚悟していたサン・ジュストが彼女を巻き添えにしたくなかったとのことです。サン・ジュストは若い頃相当放蕩したのですが革命後は極めてストイックでした。そして実際サン・ジュストの首はまなこを開いていたそうです。凄まじい精神力。彼らの死のあと、革命は変質し、政治屋の世界になったのははっきりしています。
2010.04.24 / Top↑
Secret

TrackBackURL
→http://camus242.blog133.fc2.com/tb.php/184-62495eb9

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。